• その1

    by  • 2014年8月19日 • 未分類

    ひょうたん誕生悪戦苦闘記

    筆者    千成表太郎     Hyotaro SENNARI

                            共著    清兵衛        Bay SEI

     

    平成24年11月記す、の巻。

     

    収穫編

     

    今年は去年と違いひょうたんが豊作だ。

    猫のひたいも笑う庭、にひょうたんがなった。自宅玄関正面側には大びょうたん、右寄りのフェンスは千成ひょうたん(小型のひょうたん)が植えてあり、ともに自称大豊作だ。結局去年は一個もひょうたんがならなかったので嬉しい。

    せっかくきれいに実をつけたので、多くのひょうたんをできればそのまま、できるだけひょうたんらしい雰囲気で残したい。一方で、玉石混合の中から特にきれいな形のものを選び、ひょうたんの持つ美しさを存分に発揮する逸品も作りたい。残念ながらきれいなひょうたんは気紛れだ。きれいなひょうたんが成長し、満足のいく形で仕上がることはまれだ。気まぐれな自然と幸運の接点、ほんの一瞬に垣間見せる極上の美。それを永遠に封入し掌中にしたい。雑多な思いを抱きつつ、悪戦苦闘しながらの制作途中経過を記録してゆくことにした。悪文の補足手段として随所に「傾向と対策」を配置した。ご理解の一助になればと思う。

     

    平成24年10月12日        Day 0        大収穫

    豊作である。つるが枯れるまで待ってから収穫しようと思っていたが、秋は容赦なく深まってゆく。ひょうたんの葉っぱはカリカリに枯れてきたのに、つるはいっこうに枯れず、青々としている。明日こそ収穫だと思いながら、つるの青さを見て収穫がずるずる後に延びた。見切り発車ではないが、ほどほど加減で収穫に踏み切った。実の肉厚に十分な手ごたえあり。右奥フェンスの千成ひょうたん群はあと2週間後の収穫とした。

    大びょうたんの収穫は全部で20個ほどで、肉厚から考えると収穫時期はちょうど良い。この日のうちにすべて電動ドリルで穴開けをする。口径6 mm。

     

     

    今年の穴開けは例年通りのへたを切った上に口元から穴をあけるやり方に加え、2つのやり方を追加した。ひとつはへたを少し残したまま収穫し、へたの中心からまっすぐ穴をあける方法。(↑)いくつか形のよいものに試みたが、ほとんど途中でへたが裂け、結局従来通りへたが短い口元になった。もうひとつは、長いへたを残したうえ、お尻方向から穴開けする方法。後で自然な風合いのひょうたんの姿を残せる。約半数はこのお尻からの穴開けとした。なお、口径6 mmでは種が出てこない。口元の形優先になる。ひょうたんを後で実用的な飲み物用容器として使うことはできないので要注意。出てこない種はそのままにするか、お尻の穴からボンドを注入し、固めるつもりだ。同時期に植えたゴーヤも収穫。最終段階の収穫だが、出来は今一つ。適当なものを選びお尻を少し切り、同じく水につける。もしかしてゴーヤの皮があとでひょうたんのように固まり、いぼいぼ風水飲みができるかもしれない。たのしみだ。(特許申請だ)

     

    バケツは例年通り、といっても昨年は収穫がなかったが、45 cm径のもの2個を使用。水を張り、浮き上がるひょうたんを工夫して水に漬けこむ。(↓)

     

     

    浮袋を無理に沈ませるようで、大変困難。今年から試みた、重いひょうたんをつるすネットを収穫後もそのまま生かし、庭石用に買ってあった砕石砂利の余りを詰め込み、使ってみた。浮かび上がる大びょうたんに重しを入れたネットをくくりつけ、落としブタで押さえつけ、さらにレンガを乗せ、ようやくバケツの蓋をした。蓋で押さえつけても水面のうえにどうしても空気の隙間が出来る。

     

    心配であるがなるようになるさと思い、半ばあきらめる。2個目のバケツもいっぱいになり、急いで近隣のホームセンターでバケツを調達する。45 cm系のバケツは、なぜかみんな蓋が見当たらない。ので、仕方なく60 cm系の物を購入する。残りのひょうたんを頑張って入れてみると口切いっぱいになった。ちなみにひょうたんの切り口から注射器で水を入れようとしたが、全く入らなかった。へとへとになり作業終了。貴重な2時間を費やす。秋空の雲が奇妙、な一日が暮れてゆく。(↓)

     

     

    平成24年10月26日        Day 14        水替え

    収穫、水漬けから2週間たったので、水を替える。くさい!と思ってふたを開けるが、思ったほどではなかった。水面に浮き出たひょうたんは水線以上でカビが生え、キチンと水につかった部分に比べとても汚い。いったんひょうたんを取り出し、水を入れ替え、バケツもきれいにした。水面に浮き出て、汚らしくなった部分はなるべく上手に水中に沈めた。少しずつひょうたんが重くなっている。後で思ったが、この時点でひょうたんをよく振ってみれば、きっと入り込んだ水がなかでシャカシャカ音を出したかもしれない。振って水音が聞こえるのは、内部がきれいになりかけている証拠だ。来年からは2週間目によく振ってみよう。さらにこの時点で水を強制注入してみると、案外すいすい入ってゆくかもしれない。これも来年の課題だ。2週間前と違い、約20分程度でバケツ3個の水替え終了。皮はまだ固く、水漬けはもう少し必要。(写真なし)ゴーヤちゃんはちゃんと腐ってた。ゴーヤちゃんプルにして食べとくべきだった。

     

    平成24年11月3日        Day 21        水替え

    3週間たった。例により水替え。臭みは弱い。開けてみると、やはり水面に浮かんでいるものがいくつかある。しかし、先週ほどではない。おおむねきれいな様子。が、良く見ると前回出来た汚れはしっかりと残っているので、最初の2週間程度の完全な水没水漬けが肝心だ。取り出すとまずは皮がするりとむける。ひょうたん群を取り出し、簡単に皮をむき、水洗いする。このとき気付いたが、振ると中から水音がした。手元のホビー用50 ml注射器で、水を口から入れてみると、最初は入りにくいものの徐々にうまく行く。振れば振るほど内部が広がってゆく様子だ。少しずつ注入し、手ごたえがずっしりしてくると注入終了。最後は内容が吹き出てくるので、調子よくやりすぎるのは要注意。何度かしぶきを浴び、イラつく。次々と注水できると、だんだん作業が面白くなってくる。取り出して中の水音がしないひょうたんも、振りを加えると少しづつ手ごたえがしてくる。丁寧に水を押し込む。うまく満水にできると、水中にするりと沈んでいった。ただし最後まで注水が不完全で浮かび上がるものもあり、仕方なく落としブタでおし込んだ。(↓)しかし、それ程強い浮力はもうない。

     

     

    作業途中でなかなか形がよいひょうたんを見つけた。元気良く皮をむいているといきなり崩れた。(↑)よくみると薄い肉厚(肉うす)な出来具合のものである。残念だが仕方ない。余裕があれば修復しよう。捨てずにとっておく。

     

    この日、未収穫だった千成ひょうたん群も思い切って収穫した。約40個。(↓)大収穫となった。しかし、来年はまた収穫できない可能性が高い。それはそれとして並べてみる。

     

    ドリル径は前回同様6 mmで統一。すべてお尻から穴開けし、へたは十分な長さを残した。余ったバケツ空間に早々沈めこむ。といっても浮力はそこそこある。最初に処理した大びょうたんとは違い、落としブタ上に少々レンガ、小石を入れたネットなどのせて容易に沈みこませることが出来た。3週間の水漬けでどう変わるか、ある程度の予測はできる。千成ひょうたんでも、3週間前に漬けこんだ先行試作品が少数あり、本日そのうちの一つをみるとちょうどよい感じだ。皮はきれいに向け、注射器で水をよく注入、排水できる。お尻の穴から見ると肉の厚みも十分。何度か内部の水を替え、千成ひょうたんの先行群の水漬け作業も完了とした。最初のグループ(大ひょうたん)は来週完了予定。本日の千成ひょうたんグループはあと3週間予定とする。

     

    平成24年11月4日 Day 23

    ひょうたんの浮き上がりが気になり、そっとバケツの蓋を開けてみる。と、思った通り、浮き上がっている。(↓)ずれた落としブタを水平に戻し、蓋をする。くさみほぼ無し。腕が後でかぶれてかゆい。DSC 0027

     

    千成ひょうたん先行試作品の乾燥中。保温器に入れるもなかなか乾燥しない。(↓)ので、出して撮影した。

     

     

    ちなみに隣はガラス製赤ひょうたん。(非売品。いずれ紹介)ちなみに江戸時代、ないしそれ以前はひょうたんが実用品とされており、今回のように心血を注ぐ芸術品、言い過ぎたのであれば美術品として扱われたことはないと思う。平成の時代に生まれてよかった。ちなみにこの写真は東京湾に浮かぶお台場で、公園でもある。(↓)江戸時代の日本人にとっては遊び場ではなく、黒船に備えた真面目な軍事施設である。ところ変われば品変わる、時が変われば品変わる。

     

     

    乾燥編へ続く

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    乾燥編

     

    平成24年11月7日        Day25        水抜き

    大びょうたんの収穫は終わった。バケツをひっくり返し、すべての大びょうたんを取り出す。皮はほとんどのひょうたんで簡単にむける。中には少しむきづらいものもあり、柔らかいブラシでこすり取った。25日間の水漬け期間で皮むきは合格だ。今日から中の水を抜き、乾燥工程へと進む。大びょうたんの口が小さく、逆さにしているだけでは自然乾燥を期待できない。積極的に水抜きをすることとする。

     

    仕事場から許可を得て吸引ポンプを借りてきた。(↑)ずるずるといい音を立てながら、中の脳みそが溶けて出てゆく。この手のひょうたんで容量は1.4 Lもあった。意外と中の水はきれいだ。吸い終わってから50 mlのホビー用注射器で水をすすぐ。2回繰り返す。終わったものから逆さまにして空いたプランターに入れてゆく。各々に名前はまだない。(↓)

     

     

    プランターの底にあるプラスチック製のスノコが具合いい。日中は屋外に出し、ひなたぼっこする。扇風機も活用しよう。乾かし始めてから数日でカラカラに乾燥した。写真は2日後の状態。念のためあと数日このまま乾燥させる。においはほとんどない。ハエが来る。

     

    成形加工・準備編へ続く

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    成形加工・準備編

     

    平成24年11月25日        Day43        加工こと始め

    いよいよ先に乾いた大びょうたん群の成形、加工に手を付け始めた。成形加工の目標は①、ひょうたんに成形加工を施す、あるいは施さないかの上手な選択、②、自立できるようにする。 ③少しでも見栄えよく、左右対称形に近くする。④細かな傷、穴を目立たなくする。の4点と考えてよい。①は大変難しいので補足意見としてこの項の最後に書き加えておいた。②と③を兼ねるようにすることは実は結構大変だ。筆者が収穫した大びょうたんは、過去のものも含めそのまま自立できるのは1割にも満たない。つまりそのままではほとんどが置物として飾ることができない。さらに自立できない残りの9割の半数近くがまともな左右対称形になっていない。そこで、成形加工が必要となる。木工用パテを活用する。粘土のようだが、れっきとした樹脂で、不憫な形を十分補ってくれる。ひょうたんのような木質と相性がよい。成形加工編・準備編では今までに気が付いた成形加工術のあれこれをいくつか挙げる。成形加工・実践編では実際に加工した例を見てみよう。古来いわく、玉磨かざれば光なし、ひょうたん磨かざれば自立せず。

    ちなみにこの真っ黒いひょうたんは全長60 cmを超える大型のもので、筆者が製作したものではなく、知人からいただいたものだ。漆の塗装は丁寧になされ、パテ等で修整加工した形跡が全くない。手つかずの天然ものだ。最高の芸術品で、まさに完璧。栽培段階から強力にしつけをしたらしい。この神業は筆者には不可能である。ので、できの悪い筆者のひょうたん君には詰め込み特訓教育が必要となる。

     

    成形加工はボンド・ウッドパテ(タモ白)を使用。後々の塗装に耐えるパテ、つまり粘土はこれが一番見栄えがいいと思う。過去の使用実績からもひょうたんの木調になじみが良い。歯磨き粉のような性状だが、チューブから直接盛り付けてもよいし、へらで盛り付けても簡単だ。細かな穴もきれいに入るし、やすり加工も容易だ。難点は分厚く盛ると渇きが悪く、やすりがけまで1週間程度時間がかかること。また、一回の研磨では表面に細かな凸凹、剥離が生じるので微調整の意味で数回の少量パテ盛りが必要なこと。ぐらいか。後は成形加工・実践編で実体験をもとによく考えよう。今年もホームセンターでウッドパテを一気に3個もまとめ買いした。気合は十分。

     

    ②成形加工で自立できるコツは?小さな接地部分で自立できるように盛り付けることだ。筆者は過去に何度もしくじった。ひょうたんを自立させようとパテ盛りを考えると、真っ先にしがちなのはゆがんだお尻全体に広く、大量にパテ盛りをし、結果大きな接地面で地面に着く、安定形だ。接地する部分が大きければひょうたんはより安定する。ので、気前よくパテをお尻に盛り、たい。結果、後でみると、お尻の未加工部分のカーブは丸く接地しているものの、パテ盛りした方はほぼまっすぐ地面にのびている。安定はしているが、本来の丸みが損なわれてしまう。そうではなく、筆者が今年から考えたのは接地面をなるべく小さくし、パテ盛りした部分がなるべく地面に丸くつながるように、反対側のカーブになるべく近づけるようにすることだ。(↓左、右)DSC 00067

     

     

    いわば接地面は重戦車のイメージでなく、ピンポン玉をガラス板に置いた感じだ。なお接地面が小さすぎると安定を保つのが難しいので、大きさの目安は10円玉だ。ちなみに写真は裏面である。

     

    200%(10式戦車 出典 陸上自衛隊HP)

     

    ③見栄えの良い左右対称とは?成形加工で姿勢をきれいに保つコツはまずは軸を合わせることだ。軸は首で決まる。首の中心線が接地面の中心になるとバランスが良い。理想はそうだが、理想でないから加工している。つまり、ずれてもよいのだが、目標はこれだと思う。軸が定まり、左右差、つまりバランスの良しあしが見えてくると、次にどこを修正すべきかも見えてくる。コツの2番目は首の周囲が地面に対し水平になることだ。これは当然お尻側にパテを盛り付けて調整することになる。ひょうたんの表情は千差万別。けれど、最も整ったたたずまいは軸が直立し、首の周囲が地面にきれいに平行、自立した時だと思う。これを基本に考えるとイメージがわきやすい。口が曲がっていても、お尻が出っ張っていても、基準はあくまで軸と首だ。

     

     

     

    成形加工で水平なバランスをとる場合、手に取って確かめるのが一番確実、かつ簡単だ。ひょうたんを手に持ち、余分なパテを削っては水平な場所に置く。左右に傾きがないかを確かめ、出っ張った部分をまた削る。この繰り返しで意外とすぐに水平バランスは取れる。首に軸を定め、お尻のパテ盛りを削る作業は機械的固定が一番だと今年の筆者は考えた。しかしひょうたんの首を軸に水平固定することは実に困難だ。結果は大失敗。それらしきアイデアをイメージしホームセンター内を隅々まで回った。重い万力を買い、足台風作業台に乗せた。電動ディスクグラインダーをディスク面が上面、水平になるよう取手のくびれを万力で挟み込む。今一つすわりが悪いので厚いゴム板を半円形に切り欠いて2枚あわせグラインダーの取手のくびれに挟んでみた。それでもすわりが悪そうなので細い燃料チューブをゴム板の周りに巻きつけ、完璧な水平を維持する。意味もないのに別の安いベンチ風作業台もわざわざ購入した。一方で別の万力にひょうたんを固定し、最初の万力を設置してある作業台に固定しようとしたが、思った通りにはうまくゆかない。思いつき程度では方程式は解けない。水平儀も購入したがどうしても水平が維持できない。固定が甘い。企画倒れ。結局機械式固定は全くの徒労に終わり、なんのことはない、従来通りの手でグラインダーを維持する手法になった。パテを削り取る主役は前記した小型電動ディスクグラインダーだ。今年は特に小型のものを購入し、使ってみたが意外と具合がいい。(↓)

     

    12 cmのディスクで、やすりは60番を使用。手袋、メガネ、マスクは必須。コツは押し付けず、そっとだ。余分なパテを削るのが60番の使命ゆえ、押し付けるとあっという間に平面的に削れてしまう。接触面を眼で確認しながら少しづつ削るとうまくゆく。ちなみにこれで研磨はしない。後で述べるが、磨くのは120番以降のやすりを使い、手磨きした方か無難だ。

     

     

    ④小さな傷、穴の補修は大変根気のいる作業になる。近道はないので、実際の様子を次々章の(成形加工・実践編)で見てゆきたいと思う。

     

    1. 成加工する、しないの上手な選択は?実は大変難しい。ので参考意見にとどまる。ゆくゆく述べよう。まず成形加工できるのは大びょうたんのうち約2/3 のみ。残りは箸にも棒にもかからない。ただしあくまで筆者の主観。そもそもひょうたんに美術的価値を求めるがゆえに手間暇をかけている。手間暇かけても美しくならないものは手間暇をかけない。なにせ、相手は天然物だ。当たりはずれが生じるのはこれまた自然の摂理。どうしても美しさを見いだせないものに修正加工、成形テクニックを施すのはやめよう。現段階で、筆者が修正加工困難と思うのは例えばこのようなたぐいだ。悪者ではないがこのままの雰囲気を自然に感じよう。自然のままに。ここまで来ると修正は無意味だ。(↓左右)そっとしておく。

     

     

     

    これも上のものと同じく、箸にも棒にもかからないかわいそうな仲間。(↑左、右)左右は同じひょうたん。左側の写真を見ると、下半身がざっくり斜めに欠けて、立てないのが一目瞭然。写真も投げやりだ。右側は向きを変えてみたところ。見えづらいが、黒い点は「へそ」だ。「へそ」も下半身の中心から大きくずれた位置にあり、ずれた「へそ」を中心に下半身が形作られている。上半身と明らかに位置関係がおかしく、斜め45度ほどにねじれている。上下ちぐはぐで人に例えるのが気の毒に思える様だ。加工に値しない。ある夜、ほかのひょうたんの加工がひと段落したところで、寝転んでいるこの勘違いひょうたんを手に取ってみた。上半身の口元も歪んでいる。やっぱり加工の価値がないことを確信した。ついでに、下半身の斜めに欠けている部分が元通りに発育しているとどうなっていたのか、急に興味がわいた。手元にある木工用パテ「ボンドウッドパテ」をおもむろに盛ってみる。思ったより欠損部が大きく、パテの無駄遣いに終わりそうだ。でも、もうすこし、とおもいつつ、何とかパテを盛り上げる。パフェの大盛り状態だ。残念ながら直後の写真はない。フイルム代の無駄と思ったからだ。数日後、電動ディスクグラインダーで荒磨きして、形を整えた状態。すでに上・下半身のつながりにねじれはない、元「ねじれ君」。

     

    241126デジカメ071    241126デジカメ073 20%


    まがったへたをつかんでみた状態。(↑左)下半身の体積約半分がパテだ。ちなみにパテ盛りした方が極端に重く、バランスが悪い。お尻の中心部分に新しくへその位置を決め、口径12 mmのドリルで穴あけした。(↑右)中身はカラカラと振って取り出す。そのあと外側のパテ盛り部分の正反対側に同じくらいの分量のもっと柔らかいパテを内側に大量注入した。

    241126デジカメ069 20%        

     

    一昼夜斜めに固定するとバランスは大変良好に。へそは仮に塞いである。左は矯正固定中。(↑左)右は幾多の工程を経て、とりあえず自立した後の状態。(↑右)このあと、想像を絶するくらいの工程を経て、次第に面白い形に仕上がってゆくことになるのだが、紙面の関係上中途省略する。

     

     

    これが塗装前、成形加工の最終状態。(↑)箸にも棒にもかからない、ものは疑ってかかれ、がこの章の貴重な教訓。ちなみにこのもと「ねじれ君」は後でも登場する。

     

    最初から大きく破損しているものも当然成形加工の対象外だ、と思われる。

     

    まるですき焼きの後に転がっている卵のからだ。(↑)しかし、「ねじれ君」とちがって、本来の形はよさそうだ。少しづつ修理すれば何とかなりそうかもしれない。ダメかもしれないが、「成形加工・実践編」でその顛末を紹介しよう。支離滅裂、ではかわいそうなのでこれは「バラバラ君」と呼ぶことにした。

     

    ひょうたんの分類編へ続く

    ひょうたんの分類編        形状分類(K分類)

     

    ひょうたんの形は千差万別。しかし、美術的価値を語るには形の様子を示す言葉がなく不便だ。そこで筆者が独自に形から見たひょうたんの分類をしてみた。なお、著者は生物学者ではないゆえ、生物学的専門用語は極力使用しない。生物学者の方はお怒りにならないようにしましょう。

     

    タイプⅠ

    口の突起がないもの。極端に左右不対称のもの。その他分類不能のもの。ちなみにほとんどの千成ひょうたんは口の突起がない。このタイプを人様で例えることは禁止されている。(↓)

    タイプⅡ

    上半身が下半身より大きいもの。あたまでっかち。(↓)241127デジカメ086 20%

    タイプⅢ

    上半身が下半身より極端に小さく、上下バランスの悪いもの。アルコールランプ。(↓)

    241127デジカメ089 20%

    タイプⅣ

    くびれのない形。ズンドウ形。(↓)241127デジカメ085 20%

    タイプⅤ

    上半身が下半身よりやや小さく均整がとれているもの。かつ、上半身の最大周囲径が上半身の真ん中付近にあるもの。ぽっちゃり美人型。(↓)241127デジカメ088 20%

    タイプⅥ

    上半身が下半身よりやや小さく均整がとれているもの。かつ、上半身の最大周囲径が上半身の真ん中より上にあるもの。西洋美人型。(↓)241127デジカメ087 20%

     

    241126デジカメ051 20%

     みんなで仲良く記念撮影

     

    各タイプの中で全長15 cm未満をA、全長15 cm以上をBとする。タイプが上がるほど美術的価値が高い。ちなみに千成ひょうたんのほとんどは口の突起に乏しくタイプⅠだが、まれにタイプⅤAを見かける。千成ひょうたんは小粒でもピリリときれいだ。口元のゆがみもピカソ風のものはタイプⅠ、おちょぼ口程度はタイプⅡ~Ⅵの範囲となる。今日から目にする大ひょうたん、千成ひょうたんをこのK―分類してみよう。なお、ひょうたん各部やタイプを示すのに擬人的表見が多くなってしまうが、今後の課題だ。ひょうたん美術学が進歩、成熟したのち最適な専門用語が出現すると思われる。

     

    K分類表

     

    成形加工・実践編へ続く

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    成形加工・実践編

     

    加工実例を見よう。玉磨かざれば光なし。もう少しここがこうなれば何とかなるのにと思う形のひょうたんをよく目にする。構造的に脆く、大ひょうたんの類でも肉付きが中ひょうたんくらいの薄さのものもある。それら不都合をすべて無視するのも確かに一つの処理方法だ。しかしぎりぎりアウト、補欠不合格パターンは何とかレスキューしたいのが人の情。今回好例がいくつかあるのでそれを取り上げてみよう。試行錯誤しつつ修理して学べることは多い。最後にはそこそこの出来具合になったつもり。自画自賛や自慢話が苦手な方はこの章をパスしましょう。

     

    ケースその1 バラバラ君

     

    平成24年11月3日        Day21        フェザー級

    収穫した時に妙に軽かった。水漬けからすくい上げて、胴体をもったらバラバラに砕けてしまった。あわててもと通りに組み立ててみたが、すでにいくつかのパーツが見当たらない。(前記)

    2411スマホひょうたん

     

     

    平成24年11月7日        Day25        ひらきなおり

     

    乾いた。軽く、肉厚も薄い。卵の殻よりましなレベルだ。(↑)このまま再組立てしてもいずれいつか砕けると思う。内部の補強は必須。大型の綿棒に木工用パテ「ボンドウッドパテ」を盛り、内腔全面にわたって塗りつける。(↓左)スマホ241216より1230までDSC 0357

     

     

    写真ではわかりづらいが、ひょうたん内部に茶色いパテが塗られているのが見える。(↑右)この後内腔全面に塗り広げた。性状はちょうど歯磨き粉風で、厚め、おおざっぱに塗るのは容易。あっという間に塗り終わる。とれた頭の内面にも塗りつけた。左端は仮組み立ての状態。(↓1)ひょうたんの破断面にアロンアルファをぬり、接着する。(↓2)切手大の穴もあり、裏側から厚紙を裏打ちし、穴の表裏にパテを盛りつけた。(↓3)破断した境界線の外面にも先のパテを塗り終了。バラバラ君はつぎはぎ君に進化した。(↓4)背景は常にごちゃごちゃで進化せず無視。DSC-0087 6% 0080 0092 0093

     

    1                2

    3                4

    平成24年11月10日        直立不動態勢のパテ盛り

    続いてひょうたんの形直しに入る。やっと立っているものの倒れる寸前だ。直立するのに必要な部分(お尻)の肉盛りをする。(↓左、中央) パテは同じく木工用パテ「ボンドウッドパテ」、色違いのタモ白だ。平らに直し、自立できる形状にする。(↓右)後で気づいたが、盛り付けの土手が広すぎた。もっと狭めにすることが大事。顛末は次へ。 0107 241119デジばらの241126デジ017 16%

     

     

    平成24年11月28日            120番やすりがけ①+木工パテ補修

    平成24年11月29日            120番やすりがけ②

    11月28日、120番のやすりで形を整えたのち(①)、細かく剥離した穴をパテ盛り。(写真なし)翌日11月29日再度やすりがけ(②)した状態。(↓左、中央、右)まだまだ荒削り状態。だが、やっと生き返った。集中治療室は卒業だ。少しほっとしたところで改めて眺めると、やっぱりお尻が広すぎる。続きは次の段落へ。作業が細かいので写真も細かくなってきた。241128から1202ばら 000092 000119

     

     

    平成24年11月30日        60番電動ディスクグラインダー+木工パテ補修

    お尻がパテの盛りすぎて末広がりになっているのだ。そこで電動ディスクグラインダーを使い削ってみた。上の右端は削る前、(↑右)下の左、中央は削った後。(↓左、中央)一部底面にフラットな面があるのが新しい形のお尻だ。きゅっと引き締まる。アクアから86に進化したようだ。詳細はトヨタのホームページに譲る。

     

    上の写真後ろはアクア、手前は86だ。(↑)ディスクグラインダーには60番というかなり荒目のやすりをつけたが、軽く当てるだけでそこそこきれいな削り具合になる。逆に少しでも押し付けるとあっという間に削れてゆく。削れすぎに注意が必要。60番ディスクグラインダー削りの後(↓左、中央)も表面上細かく見ると薄く剥離した部分が方々に目立つ。ので、下右端は剥離した部分に再度薄くパテを盛った写真。盛るというか、微量を擦り付ける印象。(↓右端)しつこい鬼教官だ。乾くのを静かに待つ。 241119デジカメばら241126デジカメ045

     

     

    平成24年12月2日        120番やすりがけ③+木工パテ補修

    忙しくて少し日がたった。前回同様120番のやすりで削る。命も削れる。

    241128から1202ばら DSC00130

     

    まだ表面の剥離した部分が目立つ。(↑左)乾燥は十分なので、これが120番やすりがけ+パテ補修サイクルの限界かもしれない。微量の木工パテで補修。

     

    平成24年12月5日        120番やすりがけ④+木工パテ補修

    さらに根気強く丁寧に磨く(120番やすりがけ④)も思ったような結果にはなっていない。(↑右)欠けた部分に再度木工用パテを擦り付ける。微量のみ使用。すぐに終了。

     

    平成24年12月8日        おしり再盛り付けパテ

    よくよく見るとお尻がまだまだ平らすぎる。ことに今更気づいた。接地面も広すぎる。元々あるへそが消えてしまうのに多少躊躇するも構わずパテ盛りする。チョコワ風になる。デジカメJ241208から1230までDSC 192

     

     

    平成24年12月10日        お尻削り=240番やすり①登場+木工パテ補修

     

     

    未整理スマホ241215まで DSC246

    240番やすり参上だ。柔らかく、新しいお尻を240番でそっと削る。おしりはさらにかっこよくなる。(↑左、右)86のお尻は卒業し、いよいよフェラーリだ。フェラーリのシルエットを知らない人はスルーしてよろしい。上の写真で予告したようにもう120番も卒業だ。ではなく、お役目御免といった方が妥当だ。240番は120番に比べ削る力は弱いものの削り後の剥離が圧倒的に少ないことがわかった。最初から木工用パテ削りには120番ではなく240番の使用がよいと思う。実は削り時間もそれほど変わらない。ちなみに力を入れないのはいずれも同じで、理想は触れるか触れないかの力加減だ。削っているうちについつい先を急ぎたくなって一生懸命力が入りがちになるが。

     

     

    平成24年12月12日        240番やすりがけ②  未整理スマホ241215までDSC 0252

     

     

     

    上手に削るのはいかに削る力を抑えるかにかかっている。240番で気長に削っているとようやく滑らかな表面になってきた。(↑左、右)細かく見なければ合格だ。心境も滑らかになる。

     

    平成24年12月20日        光硬化パテ登場

    光硬化パテを細かな剥離表面に使用してみる。(↓左)取説によると硬化時間が直射日光で1分、27ワット蛍光灯距離5 cmで2分とある。早い。ちなみになじみのボンドウッドパテの硬化時間は24時間だ。実際に研磨できるのはさらに1日くらい後が無難だ。から実際には1分対48時間。勝負ありか。

    DSC304

     

    塗る、というかこすり付ける感覚で、広がり具合もよく良好だ。(↑中央)明るい室内で塗っているとすぐに硬化が始まり、ロウが固まるようなイメージになる。窓際で作業するとチューブのふたを閉めずにほんの10秒くらいでチューブから中身が出なくなったのには驚いた。写真(↑右)は日光浴のイメージ。

     

    平成24年12月20日        240番やすりがけ③+光硬化パテ補修

    十分硬化した後240番のやすりでそっとやすり掛け。かなり表面の凹凸が消えてくる。(↓左、中央)木工パテと違い光硬化パテの方が圧倒的に細かな剥離が少ない印象だ。もうひと頑張り。ちなみに光硬化パテはホームセンターの接着剤売り場で売ってない。すでに日用品の範疇を出ている。プラモデル屋、ホビーショップでお目にかかる。そこには当然ザクかドムだかわからない手合いもごろごろしている。(↓右)横目でにらんで無視する。

     

    DSC 029

     

     

    平成24年12月23日        240番やすりがけ④+光硬化パテ補修

    240番やすりがけ④の後の状態。(↓左、右)これを見るとこの章もいよいよ終わりが近づいてきた雰囲気になる。つまり表面の状態はかなり良好。鬼教官の目にも涙。だんだんマニアックな雰囲気になってきている。時々コーヒーを飲みに行く街ではプラスチック製のマニア向け人形をよく見かける。マニアックにならないよう気を引き締める。 DSC317

     

     

    ひょうたんの加工は伝統工芸だと思われがちだ。年配者が仏壇の隣に供えて喜ぶ景色を想像する。が、補修素材、塗装等に関し、まともな使用機材、材料等は実質的にほとんどアキバ系だ。(↓左、中央、右)要注意。もう浅草でひょうたんを物色するのはやめだ。しかし、秋葉原でひょうたんは見かけない。困った。

    2411スマホひょうたん

     

     

    平成24年12月24日        400番やすりがけ→800番やすりがけ、成形加工最終段階

    DSC 0328

     

    400番を経て800~1000番相当の3M ULTRAFINEで仕上げた。(↑左、右)もうつるつるだ。オヤジの禿げ頭状態になったのでこの章の目的は達成された。なお、大活躍の光硬化パテだが、木工用パテと違い盛り付けることはできない。薄く補修するのみだ。取説では厚さ2 mmまでと書いてある。重ね塗りはむろん可能だが、盛って造形することはできない。念のため。大雑把な造形はボンドウッドパテで盛り付け、細かな造形、剥離後の修復は光硬化パテを使う、のが教科書的手順だ。やすりがけは120番を早めに切り上げ、240番を多用すると表面のパテ剥離が最小限になる。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    塗装編へ続く

     

    About